技術情報

ホール電流検出器の技術解説

  • ホール電流検出器は、磁界の強弱を電気信号に変換する半導体磁電変換素子の一種であるホール素子を内蔵する高精度の電流検出器です。ホール電流検出器は被測定電流の周囲に発生する磁界の強さをホール素子で電圧信号に変換し、更にこの電圧信号を内部の回路で処理して被測定電流に比例した電圧または電流として出力します。このようにホール電流検出器による電流測定は、被測定電流によって発生する磁界を介して間接的に行われますので、被測定導体から測定回路を容易に絶縁することができます。
    また、従来から電流検出に使用されてきたCT(変流器)は用途によって直流専用のDC CTと交流専用のAC CTに分かれておりますが、ホール電流検出器は単独で直流、交流、パルス電流、更に直流に交流が重畳した脈動電流を検出することができます。
    このようにホール電流検出器はDC CTとAC CTの両方の機能を兼ね備えていることに加え、従来のCTに比べて小型軽量であることや直線性に優れている等の特長を有しております。
    現在、ホール電流検出器には検出方式の違いにより磁気比例式(オープンループ方式)と磁気平衡式(クローズドループ方式)の二つのタイプがあります。
    一般的には、磁気比例式ホール電流検出器からは電圧出力が、磁気平衡式ホール電流検出器からは電流出力が得られます。
    弊社は数アンペアから数万アンペアまでの範囲内で、測定範囲、開口部寸法、形状、取付方法などが異なる多種多様なホール電流検出器を製造しております。
    本カタログ中や製品仕様の中で用いるホール電流検出器、磁気比例式ホール電流検出器、磁気平衡式ホール電流検出器などの用語は字数が多く煩雑ですので、それぞれHCT、磁気比例式HCT、磁気平衡式HCTというように短縮した形で使用します。

    なお、HCTはHall CTを省略した言葉で、従来より電流検出に使用されてきたCT(Current Transformer:変流器)に対しホール電流検出器がHall効果を応用したCTであるという意味で使用しております。

  • HCTは一般的に下記の特長を有しております。

    • *小型軽量。
    • *応答速度が速い。
    • *直線性に優れている。
    • *過電流で破壊しない。
    • *周波数特性に優れている。
    • *構造が簡単なので、信頼性が高い。
    • *直流から交流まで連続して 電流の測定ができる。
    • *被測定導体から完全に絶縁して電流の測定ができる。
  • 弊社のHCTは電流の精密制御や過電流検出が必要な下記の用途に広く使用されております。

    • *ACおよびDCサーボ装置
    • *汎用および特殊インバータ
    • *NC工作機械の制御装置
    • *産業用ロボットの制御装置
    • *無停電電源装置
    • *安定化電源装置
    • *インバータ制御溶接機
    • *レーザー加工機の電源装置
    • *モーター等回転機の可変速装置
    • *エレベーターの制御装置
    • *電車等搬送機器の速度制御装置
    • *電気自動車の制御装置
    • *プロセス制御装置
    • *その他の自動制御装置
  • 本カタログ中や製品仕様の中で使用される記号の意味は下記の通りです。
    なお、詳しい説明が用語解説の項にありますので参照下さい。

    HCTによって測定しようとする任意の電流を被測定電流と称しております。
    本カタログ中や製品仕様の中では便宜上、被測定電流をHCTに対する入力とみなし、被測定電流の代わりに入力電流という用語も使用しております。

    オフセットやヒステリシス誤差、あるいは直線性誤差を含まない各HCTの理想的な入出力特性を表すグラフは、グラフ1においてゼロ点を通る点線で示した直線になります。
    しかし、実際には、HCTの入力電流がプラス方向及びマイナス方向の両領域において、或る値を超えると、HCTが内蔵している磁気コアまたは増幅器が飽和し始めるので、グラフ1の黒の実線が示すようにHCTの出力は徐々に理想的な入出力特性を表す点線から外れてきて、ついには一定の値に近づき、飽和してしまいます。
    磁気コアまたは増幅器の飽和によってHCTの実際の出力と理想的な入出力特性を表すグラフから求めた出力との差が3%以上に拡大し始める入力電流の正負の値を飽和電流と称しております。
    (グラフ1の縦軸の尺度は正負の飽和電流値付近で誇張してあります。)

    グラフ1 飽和電流と直線範囲
    グラフ1 飽和電流と直線範囲

    アンペア回数(AT)は磁界を発生させるコイルに流れる電流の「アンペア数(Ampere)」に「コイルの巻数(Turn)」を乗じた相乗積のことで、磁気回路の起磁力という物理量を表す単位です。
    例えば、巻数2回のコイルに50Aの電流を流した時の起磁力と、巻数10回のコイルに10Aを流した時の起磁力は等しく、どちらも100ATとなります。
    HCTは磁気コアすなわち磁気回路を内蔵しておりますので、HCTの出力はその磁気回路に対する磁気的入力すなわち前述の起磁力の大きさに比例します。
    言い換えれば、HCTの出力は「被測定電流の大きさ」と被測定導体がHCTの磁気コアの開口部を通る回数すなわち磁気コアに巻いた「被測定導体の巻数」の両方に比例します。
    弊社では、50A以上の電流の測定に使用される貫通型HCTの公称入力電流および直線範囲(測定範囲)を規定する単位として「アンペア回数(AT)」を、主に50A以下の電流の測定に使用される非貫通型HCTの公称入力電流および直線範囲を規定する単位として「アンペア(A)」を採用しております。
    その理由につきましては貫通型HCTおよび非貫通型HCTに関する解説を参照下さい。
    なお、本カタログ中や製品仕様の中では、HCTの公称入力電流および直線範囲を規定する際の単位として用いる「AT」と「A」の後に直流を意味するDCを付け加えて「AT DC」や「A DC」のように表示しております。
    これは、HCTの感度調整や出荷検査を行う際、弊社では交流の波高値と同等な値を持つ電流源として直流の定電流電源を使用していることを表したものであり、弊社製HCTが直流しか測定できないという意味ではありませんので、ご了解下さい。

    弊社の殆どのHCTはアンプを内蔵しておりますが、一部の磁気比例式HCTでアンプを内蔵していない製品があり、そのようなHCTからはホール素子の出力電圧がそのまま出力されます。
    ホール素子そのものの感度は、残留電圧(Vr)を含まない形で求められておりますので、グラフ2に示すように、アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの公称出力電圧 (VH(n))には残留電圧(Vr)は含まれません。

    グラフ2 アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの入力特性
    グラフ2 アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの入力特性

    アンプ内蔵型磁気比例式HCTでは、製造工程で感度を調整する際、ホール素子の後段に接続されたアンプ回路の特性上、オフセット電圧(Vo)を切り離して公称入力電流に対応する公称出力電圧を設定することができませんので、グラフ3に示すように、公称出力電圧(Vh(n))にはオフセット電圧(Vo)が含まれます。なお、磁気平衡式HCTで出力側に負荷抵抗を追加して電流出力を電圧出力に変換した製品があり、その場合にも便宜上、公称出力電圧を表す記号としてVh(n) を使用しております。

    グラフ3 アンプ内蔵型磁気比例式HCTの入力特性
    グラフ3 アンプ内蔵型磁気比例式HCTの入力特性

    磁気平衡式HCTについても、アンプを内蔵しておりますので、アンプ内蔵型磁気比例式HCTにつての解説と同様の理由で、公称出力電流(Ih(n))にはグラフ4に示すようにオフセット電流(Io)が含まれます。

    グラフ4 磁気平衡式HCTの入力特性
    グラフ4 磁気平衡式HCTの入力特性

    前述のようにアンプ非内蔵型磁気比例式HCTからはホール素子の出力電圧がそのまま出力されます。
    アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの出力電圧(VH)はグラフ5に示すようにホール素子の残留電圧(Vr)をオフセットとして含んでおります。

    グラフ5 アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの入力特性
    グラフ5 アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの入力特性

    アンプ内蔵型磁気比例式HCTの出力電圧(VH)はグラフ6に示すようにオフセット電圧(Vo)を含んでおります。
    なお、磁気平衡式HCTで電圧出力タイプのHCTについても便宜上、任意の出力電圧を表す記号としてVhを使用しております。

    グラフ6 アンプ内蔵型磁気比例式HCTの入力特性
    グラフ6 アンプ内蔵型磁気比例式HCTの入力特性

    磁気平衡式HCTの出力電流(Ih)はグラフ7に示すようにオフセット電流(Io)を含んでおります。

    グラフ7 磁気平衡式HCTの入力特性
    グラフ7 磁気平衡式HCTの入力特性

    HCTに組み込まれるホール素子に使用される半導体材料の材質の不均一性やホール素子を量産する際の製造技術上の制約などのために、ホール素子の四つの端子を電気的に対称な位置に形成することは極めて困難です。
    その結果、零磁界の下でもホール素子に制御電流が流れていれば、その出力端子間にプラスまたはマイナスの方向に微少な電位が発生します。
    この微少な電位は不平衡電圧または残留電圧と呼ばれるホール素子自身のオフセットです。
    なお、アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの出力には、ホール素子の残留電圧がそのままオフセットとして含まれます。
    一方、アンプ内蔵型HCTでは、アンプを含む電子回路の調整によってオフセットを小さくすることができます。

    アンプ内蔵型磁気比例式HCTでは、ホール素子の残留電圧はそのまま増幅され、アンプ自身が持っているオフセットと合算されて、HCTの出力のオフセットとなります。
    このHCTの出力に含まれるオフセットはアンプを含む電子回路の調整によって小さくすることができます。しかし、完全に零にすることはできず、わずかな電圧が残ってしまいます。
    このわずかに残った電圧をオフセット電圧と称しております。
    オフセット電圧の調整は電子回路中のトリマ抵抗器の調整や印刷抵抗のトリミングなどによって行われます。
    なお、磁気平衡式HCTで電圧出力タイプのHCTについても便宜上、オフセット電圧を表す記号としてVoを使用しております。
    また、このオフセット電圧の規格は電源投入後約5秒以内の値となります。

    磁気平衡式HCTでは、内蔵しているホール素子の電圧信号は電流増幅器によって電流に変換されます。
    その際、ホール素子の残留電圧も電流の形で継承されて磁気平衡式HCTの出力のオフセットとして現れます。これをオフセット電流と称しております。

    各HCTの理論的な入出力特性を表すグラフは、オフセットの値と公称入力電流の規定値に対して実際に調整された出力の値を結んだ直線になります。
    ところが、HCTの実際の入出力特性は、グラフ8の実線が示すように、そのHCTの理論的な入出力特性(点線)に対して多少のゆらぎがあります。
    各HCTの正負の公称入力電流(If(n))に挟まれた領域内での実際の出力と理論値との差を直線性誤差と称しております。
    また、各HCTの正負の公称入力電流(If(n))に挟まれた領域内で、そのHCTの実際の入出力特性を示すグラフが理論的な入出力特性を表す直線にどれだけ近いかを表すのが直線性です。
    弊社製HCTの直線性は、各HCTの公称出力に対する直線性誤差の割合(%)で規定しております。
    例えば、弊社のアンプ内蔵型磁気比例式HCTの直線性は、「公称出力電圧の±1%以内」と規定しております(グラフ8で2本の細線で挟まれた領域です)。
    ここで前項同様、公称出力電圧が4V、オフセット電圧が±0.03V以内に規定されたアンプ内蔵型磁気比例式HCTを例に取り、HCTの直線性について説明します。
    なお、グラフ8に示した例では、ある特定のアンプ内蔵型磁気比例式HCTについてオフセット電圧が規定値ぎりぎりの+0.03Vであったと仮定しております。
    さて、4Vの±1%は±0.04Vですから、あるアンプ内蔵型磁気比例式HCTの出力は、グラフ8に示すようにそのHCTの正負の公称入力電流に挟まれた領域全体にわたり±0.04V以内の直線性誤差を伴っている可能性があります。
    従って、「公称出力電圧の±1%以内」と規定された直線性が、「HCTの任意の入力電流に対するHCTの実際の出力が、その理論値と比較して、±1%の誤差の範囲内にある」ということを意味してはおりませんのでご注意下さい。

    このことは磁気平衡式HCTの直線性についても、同様です。なお、「直線性が定義されている入力電流の範囲」と「直線範囲が定義されている入力電流の範囲」は異なりますので、ご注意下さい。

    グラフ8 直線性
    グラフ8 直線性

    HCTの駆動には、一般的に直流電源が使用されます。
    弊社製HCTには電源電圧として±15V, ±12V, ±5V(両電源)などのようにプラスとマイナスの両極の電圧を必要とする製品と、+15Vや+12V(片電源)などのようにプラスのみの単極の電圧を必要とする製品とがあります。

    HCTが消費する電流は、HCTの検出方式によって異なります。
    磁気比例式HCTの場合は、内部の電子回路を駆動するためにほぼ一定の電流(約18mA)が消費されます。
    一方、磁気平衡式HCTの場合は、原理的に内部の電子回路を駆動するために消費される一定のスタンバイ電流(約18mA)に加えて、検出電流(If)に比例した出力電流も消費されることになります。 つまり、磁気平衡式HCTの場合は、Icc = Ist + Ih となります。
    従って、磁気平衡式HCTを使用する際は、使用するHCTの駆動電圧ばかりではなく、その消費電流も考慮に入れて、電源の容量を決めて下さい。

    磁気平衡式HCTにおいて、被測定電流の入力がない状態、即ち、出力電流がない状態での待機電流をスタンバイ電流と称しています。

    応答速度は、HCTの入力電流が変化した場合にその変換出力が入力電流の変化に追随する速さのことです。
    弊社では、測定器の関係上、HCTへの入力電流を遮断した時の立下がりのステップ応答によってHCTの応答速度を規定しております。
    具体的には、グラフ9に示すように、HCTの入力電流を遮断し、入力電流が立下りを始めてから元の振幅の10%に減少するまでの時間(t1)と、HCTの出力が入力の変化に応じて立下りを始めてから元の振幅の10%に減少するまでの時間(t2)との差を応答速度(Trr)として表しています。

    グラフ9 応答速度
    グラフ9 応答速度
    Ic : ホール素子の制御電流(定電流回路およびアンプ非内蔵型磁気比例式HCTのホール素子に流す制御電流)
    Ri : ホール素子の入力抵抗(定電流回路およびアンプ非内蔵型磁気比例式HCTにおいて、内蔵されたホール素子に流す制御電流端子間抵抗)
    Ro : ホール素子の出力抵抗(定電流回路およびアンプ非内蔵型磁気比例式HCTのホール素子の出力端子間の抵抗)

    HCTの出力側には短絡防止用の回路設計がなされておりますが、使用している増幅器に許容される出力電流には限度がありますので、5kΩ以上の負荷でご使用下さい。
    通常は10kΩの負荷を標準としております。

    磁気平衡式HCTの出力は基本的には電流出力(Ih)ですが、通常は出力端子に負荷抵抗(Rm)を接続してその電圧降下
    (Ih x Rm)を電圧出力(Vh)として利用します。この電圧出力(Vh)の大きさは負荷抵抗(Rm)の値を変えることによって調整できますが、負荷抵抗の大きさについては制限があります。

    磁気平衡式HCTの増幅回路の最終段には、電流増幅器としてトランジスタが使用され、トランジスタの負荷回路にフィードバック用二次巻線が接続されています。フィードバック用二次巻線の抵抗による電圧降下についても考慮する必要があります。

    電圧出力を大きくするために負荷抵抗の値を大きくしていったときに、電圧出力が飽和してしまうことがあります。この場合、電源電圧を大きくすれば、さらにHCTの電圧出力を大きくすることができますが、電流増幅用トランジスタのコレクタ損失が大きくなり、故障につながる可能性があります。

    また、磁気平衡式HCTの直線範囲は負荷抵抗の値によって大きく変化します。直線範囲をひろくするために負荷抵抗の値を小さくしていっても、トランジスタのコレクタ損失が大きくなり、故障につながる可能性があります。

    従って、磁気平衡式HCTの電流出力を電圧出力に変換するために使用する負荷抵抗は、使用目的に合わせた値を選択する必要があります。

    Ta : 使用温度範囲
    Ts : 保存温度範囲

    本カタログ中や製品仕様の中で使用される英文字の意味は下記の通りです。

    Within : 以内(表示されている正と負の値の間にあるという意味です)
    Min. : 以上
    Max. : 以下
    at : ~のとき
  • 本カタログ中や製品仕様の中で使用される用語について解説します。
    解説を分かり易くするため、被測定電流のプラス方向の領域に限定して説明した箇所がありますが、ホール電流検出器は交直両用ですので、当然同じ説明が被測定電流のマイナス方向の領域にも適用されます。
    また、HCTを使用する際に注意すべき点につきましても用語解説の中で言及しております。

    50A以上の電流の測定に使用するHCTには開口部があり、この開口部に被測定導体を通して測定を行います。
    この種のHCTをその開口部に因んで貫通型HCTと称しております。
    貫通型HCTを用いて電流を測定する場合、被測定導体をHCTの開口部に一回だけ通過させて使用することもできますし、あるいは被測定導体をHCTの開口部に何回か巻つけて使用することもできます。
    そのため、貫通型HCTの選択に際しては、HCTの磁気回路に対する磁気的入力すなわち起磁力の大きさを左右する二つの要素である「被測定電流の大きさ」とHCTに巻きつける「被測定導体の巻数」との相乗積を考慮する必用があります。
    従って、貫通型HCTの公称入力電流および直線範囲を規定する単位としては、「アンペア回数(AT)」を使用するのが理に適っております。
    なお、被測定導体をHCTの開口部に巻きつけることによってHCTの出力を磁気的に増幅できると同時に、出力対オフセットの比率すなわち一種のS/N比を改善することができます。

    その理由につきましては、S/N比に関する解説を参照下さい。

    HCTに組み込まれるホール素子自身の感度には限界がり、50Aより小さい電流を測定するためのHCTを貫通型で実現することは非常に困難です。
    そこで、50A以下の電流測定用HCTには、ホール素子に印加される磁界を強くして磁気的にHCTの感度を高める工夫がしてあります。
    つまり、図Aに示すようにHCTの磁気コアには予め導体が数回巻かれており、この導体の終端に被測定導体を接続して測定を行います。

    図A 非貫通型型HCTの概略図
    図A 非貫通型HCTの概略図

    本カタログ中や製品仕様の中では、この導体を変圧器や変流器の一次巻線になぞらえて一次導体と称しております。
    また、測定時に被測定導体をHCTの一次導体の終端に接続することに因んで、この種のHCTを非貫通型HCTと称しております。
    弊社の非貫通型HCTはその磁気回路に対する起磁力が通常50AT前後になるように設計されており、各HCTの磁気コアに巻く一次導体の巻数はそのHCTに規定された公称入力電流を基に決めてあります。
    このように非貫通型HCTの磁気回路に対する起磁力の大きさを左右する二つの要素のうち「一次導体の巻数」については、予めHCT毎に決まっていますので、非貫通型HCTの選択に際しては、その一次導体に連続的に流すことのできる「被測定電流の大きさ」のみを考慮すれば済みます。
    従って、非貫通型HCTの公称入力電流*および直線範囲*を規定する単位としては、アンペア回数(AT)ではなく「アンペア(A)」を使用するのが理に適っております。
    なお、非貫通型HCTを使用される際は、磁気コアに巻いてある一次導体の抵抗によって発生する熱によるHCTの過熱破損を防ぐため、公称入力電流の規定値が被測定電流の推定最大値より大きな値(被測定電流が交流の場合は、別途規定がない限りその「実効値」より大きな値)のHCTをお選び下さい。

    グラフ1に示すように各HCTの入力電流のプラス方向の飽和電流値(+If(s))とマイナス方向の飽和電流値(-If(s))に囲まれた範囲を直線範囲と称しており、HCTの測定範囲を表します。
    なお、磁気平衡式HCTの直線範囲につきましては、磁気コアや増幅器の飽和だけでなく、電流出力を電圧出力に変換するために出力側に接続する負荷抵抗の大きさによっても左右されます。

    グラフ1 飽和電流と直線範囲
    グラフ1 飽和電流と直線範囲

    HCTの感度(HCTの入出力特性を表すグラフの直線部分の勾配すなわち入力電流1A当たりの出力電圧または出力電流)の設定は、各HCTの公称入力電流の値を設定ポイントとして、その出力が規定の公称出力電圧または公称出力電流の値になるように調整して行います。
    HCTの理論的な感度を前述の記号を用いて表現すると下記のようになります。

    アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの感度 : SH = VH(n) ÷ If(n)
    (グラフ2参照)

    グラフ2 アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの入力特性
    グラフ2 アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの入力特性

    アンプ内蔵型磁気比例式HCTの感度 : Sh = (Vh(n) - Vo) ÷ If(n)
    (グラフ3参照)

    グラフ3 アンプ内蔵型磁気比例式HCTの入力特性
    グラフ3 アンプ内蔵型磁気比例式HCTの入力特性

    磁気平衡式HCTの感度 : SI = (Ih(n) - Io) ÷ If(n)
    (グラフ4参照)

    グラフ4 磁気平衡式HCTの入力特性
    グラフ4 磁気平衡式HCTの入力特性

    また、上記の感度を用いてHCTの理論的な入出力特性を数式で表現すると下記のようになります。

    アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの入出力特性: VH = SH x If + Vr
    (グラフ2参照)

    グラフ2 アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの入力特性
    グラフ2 アンプ非内蔵型磁気比例式HCTの入力特性

    アンプ内蔵型磁気比例式HCTの入出力特性 : Vh = SV x If + Vo
    (グラフ3参照)

    グラフ3 アンプ内蔵型磁気比例式HCTの入力特性
    グラフ3 アンプ内蔵型磁気比例式HCTの入力特性

    磁気平衡式HCTの入出力特性 : Ih = SI x If + Io
    (グラフ4参照)

    グラフ4 磁気平衡式HCTの入力特性
    グラフ4 磁気平衡式HCTの入力特性

    製造工程でHCTの感度を設定する際に生じる誤差を設定誤差と称しており、弊社では製品にもよりますがHCTの設定誤差を公称出力電圧及び公称出力電流の±1%以内と規定しております。
    HCTの感度の設定誤差は、便宜的に本カタログ中や製品仕様の中の公称出力電圧及び公称出力電流の欄に、「4V ± 1% at If = If(n)」あるいは「50mA ± 1% at If = If(n)」というように公称出力電圧及び公称出力電流の後に「±1%」を加えて表示しております。
    多数の同じ種類のHCTついて、理論的な入出力特性を表すグラフ(すなわち個々のHCTのオフセットの値と公称入力電流の規定値に対して実際に調整された出力の値を結んだ直線)の分布がどのようになる可能性があるか、公称出力電圧が4V、オフセット電圧が±0.03V以内に規定されたアンプ内蔵型磁気比例式HCTを例に取り説明します。
    4Vの設定誤差(±1%)は±0.04Vですから、このHCTの公称入力電流に対応して調整された実際の出力電圧の値は極端な場合、あるHCTについては3.96Vに調整され、他のHCTについては4.04Vに調整されている可能性があります。
    従って、オフセット電圧と設定誤差を考慮に入れた個々のHCTの理論的な入出力特性を表すグラフは、グラフ10に示す直線(1)-(1)', (2)-(2)', (3)-(3)',及び(4)-(4)'で囲まれた領域に分布している可能性があります。
    直線(1)や直線(4)で表される極端な入出力特性のグラフは、入力電流のマイナス方向の領域では理想的なHCTの入出力特性を表すグラフ(グラフ10の中の点線)からかなりかけ離れてしまいます。
    そこで、このようなことがないように弊社の製造工程では、先ず各HCTのオフセットの測定と調整を行ない、その正負を考慮に入れて、HCTの理論的な入出力特性を表すグラフがグラフ11に示す直線a-a', b-b', c-c', およびd-d'で囲まれた領域の内側に分布するように、HCTの感度調整を行っております。

    グラフ10 HCTの理想的な入出力特性を表すグラフの分布
    グラフ10 HCTの理想的な入出力特性を表すグラフの分布
    グラフ11 HCTの設定誤差と理想的な入出力特性を表すグラフの分布
    グラフ11 HCTの設定誤差と理想的な入出力特性を表すグラフの分布

    HCTの感度が周囲温度の変化によって若干変動しますので、それに伴いHCTの出力が変動します。
    これはHCTに組み込まれたホール素子や電子部品の温度変動が原因で起こります。
    出力の温度ドリフトにはプラスまたはマイナスの温度係数を有するものや、一定の温度範囲内で不規則に変動するものなどがあります。
    出力の温度ドリフトは温度1℃当りの変動(つまり mV/℃ または %/℃)、あるいは一定の温度範囲内での最大変動幅で表しております。

    入力電流が零の時のHCTの出力、すなわちオフセットも出力の温度ドリフト同様、周囲温度の変化によって若干変動します。
    オフセットの温度ドリフトは温度1℃当りの変動(つまり mV/℃ または mA/℃)、あるいは一定の温度範囲内での最大変動幅で表しております。
    また、オフセットの温度ドリフトはゼロドリフトとも呼ばれております。

    HCTは磁気コアを内臓しておりますので、HCTの入力電流の方向が変化して零点を通過するたびに、磁気コアに使用されている磁性材料の磁気ヒステリシス特性に起因する誤差が出力に含まれてしまいます。 この誤差をヒステリシス誤差と称しております。
    ヒステリシス誤差は、磁気比例式HCTの場合は電圧値で、磁気平衡式HCTの場合は電流値で表しております。
    なお、ヒステリシス誤差はオフセットを含んでおりません。

    絶縁耐圧は、物質の二点間に電圧を加えて、その値を次第に増加していった時に絶縁破壊を起こすにいたる電圧のことです。
    弊社製HCTの絶縁耐圧は、50Hzまたは60Hzの電圧を1分間印加しても絶縁破壊を起こさない交流の波高値で規定しており、単位にはkVを用いております。
    貫通型HCTの場合は、被測定導体が接触するHCTの貫通部の内側と電源端子および出力端子との間の絶縁耐圧、あるいはHCTの貫通部の内側と取り付け部分との間の絶縁耐圧を規定しております。
    また、非貫通型HCTの場合は、被測定導体を接続する一次導体と電源端子および出力端子との間の絶縁耐圧を規定しております。

    絶縁物に電圧を加えると、極わずかですが電流が流れます。この場合の抵抗を絶縁抵抗といい、単位にはMΩが用いられております。
    弊社製HCTの絶縁抵抗は、直流500Vを印加したときに計測される抵抗の最低値で規定しております。
    貫通型HCTの場合は、被測定導体が接触するHCTの貫通部の内側と電源端子および出力端子との間の絶縁抵抗、あるいはHCTの貫通部の内側と取り付け部分との間の絶縁抵抗を規定しております。
    また、非貫通型HCTの場合は、被測定導体を接続する一次導体と電源端子および出力端子との間の絶縁抵抗を規定しております。

    S/N比は信号対雑音比のことで、本来信号と雑音の電力比で表示されます。
    本カタログ中ではHCTの出力対オフセットの比率を、本来の信号対雑音の電力比になぞらえてS/N比と称して使用しております。
    さて、貫通型磁気比例式HCTの場合、HCTの磁気回路に対する起磁力が規定の直線範囲内(測定範囲内)であれば、起磁力のAT数が低い領域でHCTを使用するよりもAT数の高い領域で使用するほうがS/N比を改善できます。
    その理由は、被測定導体を貫通型HCTの開口部に巻き付けてHCTの磁気回路に対する起磁力を大きくし、HCTの出力を磁気的に増幅しても、オフセットには影響がなく、その大きさが変わらないからです。
    例えば、公称入力電流が200AT、公称出力電圧が4V、オフセット電圧が-20mV、直線範囲が0~±600ATである貫通型磁気比例式HCTがあったとします。
    このHCTを用いて100Aを測定しようとするとき、下記の二つの場合についてS/N比を検討してみます。

    (1)被測定導体をHCTの開口部に一度だけ貫通させて測定する場合

    HCTの磁気回路に印加される起磁力 : 100 AT (= 100 A x 巻数1回)
    出力電圧 : 2 V (= 4 V ÷ 200 AT x 100 AT)
    オフセット電圧 : -20 mV
    S/N比 : 0.0100 (=|-20 mV ÷ 2 V|)

    (2)被測定導体をHCTの開口部に4回巻きつけて測定する場合

    HCTの磁気回路に印加される起磁力 : 400 AT (= 100 A x 巻数4回)
    出力電圧 : 8 V (= 4 V ÷ 200 AT x 400 AT)
    オフセット電圧 : -20 mV
    S/N比 : 0.0025 (=|-20 mV ÷ 8 V|)

    従って、(2)の場合は(1)の場合に比べてS/N比を1/4に改善することができます。
    また、オフセットの温度ドリフトについても同様のことが言えます。
    一方、HCTの出力を増幅器によって電気的に増幅しますと、増幅率に応じてHCTのオフセットも増幅されてしまいますので、増幅する前後での出力対オフセットの比率に変化はありません。
    なお、上述の例は貫通型磁気比例式HCTを使用する場合についてですが、貫通式磁気平衡式HCTを使用する場合には、HCTの温度上昇に関する説明にありますように、内蔵している電流増幅用トランジスタの発熱を避けるため、連続的に検出する被測定電流(交流の場合は実効値)の値と被測定導体の巻数との積が公称入力電流の規定値を越えないようご注意下さい。

    (1) HCTが内蔵する磁気コアの発熱に起因するもの

    HCTの入力電流が交流やパルス電流の場合、周波数によっては、HCTが内蔵する磁気コアに使用されている磁性体の磁気損失により磁気コアが発熱し、HCTの温度上昇を招くことがあります。
    磁気コアの発熱量は、磁気コアの材質、磁気コアが積層タイプの場合は席層板の厚さ、被測定電流の大きさや周波数によって異なりまが、一般的には、磁気比例式HCTでは被測定電流の周波数が数kHzを超える付近から、磁気平衡式HCTでは数十kHzを超える付近から磁気コアの発熱が顕著になります。
    被測定電流が周波数の高い成分を含みHCTの温度上昇が懸念される場合は、図Bに示した被測定電流を構成する搬送電流の大きさ(A)、搬送電流の周波数(B)、リップル成分の大きさ(C)、リップル成分の周波数(D)をお調べの上、ご相談下さい。

    図B 被測定電流の波形例
    図B 被測定電流の波形例

    (2) 非貫通型HCTが内蔵する一次導体の発熱に起因するもの

    非貫通型HCTの一次導体に公称入力電流の規定値を越える被測定電流を連続して通電すると、一次導体の抵抗による発熱でHCTの温度上昇を招き、破損する恐れがあります。
    一次導体の抵抗はその線径と長さに依存しますので、弊社製非貫通型HCTの一次導体の線径は、各非貫通型HCTの公称入力電流の規定値と一次導体の巻数を基に決めております。
    なお、非貫通型HCTに公称入力電流の規定値を越える被測定電流(交流の場合は実効値)を流せるのはせいぜい1秒程度の間だけですので、ご注意下さい。

    (3) 磁気平衡式HCTが内蔵する電流増幅用トランジスタの発熱に起因するもの

    既述のように磁気平衡式HCTの増幅回路の最終段には電流増幅用のトランジスタが使用されておりますので、公称入力電流の規定値を越える被測定電流(交流の場合は実効値)を連続してHCTに通電しますと、トランジスタの発熱により貫通型、非貫通型を問わず、HCTの温度上昇を招き、破損する恐れがありますので、ご注意下さい。

    HCTの測定精度は、感度の設定誤差、直線性誤差、オフセット、ヒステリシス誤差、出力の温度ドリフト、オフセットの温度ドリフトなどを総合したものとなります。

    (1)RL : 磁気比例式HCTの負荷抵抗

    HCTの出力側には短絡防止用の回路設計がなされておりますが、使用している増幅器に許容される出力電流には限度がありますので、5kΩ以上の負荷でご使用下さい。通常は10kΩの負荷を標準としております。

    (2)Rm : 磁気平衡式HCTの負荷抵抗

    磁気平衡式HCTの出力は基本的には電流出力(Ih)ですが、通常は出力端子に負荷抵抗(Rm)を接続してその電圧降下
    (Ih x Rm)を電圧出力(Vh)として利用します。この電圧出力(Vh)の大きさは負荷抵抗(Rm)の値を変えることによって調整できますが、負荷抵抗の大きさについては制限があります。

    磁気平衡式HCTの増幅回路の最終段には、電流増幅器としてトランジスタが使用され、トランジスタの負荷回路にフィードバック用二次巻線が接続されています。フィードバック用二次巻線の抵抗による電圧降下についても考慮する必要があります。

    電圧出力を大きくするために負荷抵抗の値を大きくしていったときに、電圧出力が飽和してしまうことがあります。この場合、電源電圧を大きくすれば、さらにHCTの電圧出力を大きくすることができますが、電流増幅用トランジスタのコレクタ損失が大きくなり、故障につながる可能性があります。

    また、磁気平衡式HCTの直線範囲は負荷抵抗の値によって大きく変化します。直線範囲をひろくするために負荷抵抗の値を小さくしていっても、トランジスタのコレクタ損失が大きくなり、故障につながる可能性があります。

    従って、磁気平衡式HCTの電流出力を電圧出力に変換するために使用する負荷抵抗は、使用目的に合わせた値を選択する必要があります。

    オフセット(Vr, Vo, Io)

    通常のHCTについては、入力電流が零の時には出力も零であることが理想的ですが、HCTに組み込まれているホール素子やオペアンプが潜在的に持っているオフセットの影響でHCTの出力にもオフセットが含まれます。
    HCTの出力に含まれるオフセットは、アンプの有無や検出方式の違いにより残留電圧(Vr)、オフセット電圧(Vo)、オフセット電流(Io)というように異なる用語を用いて区別しております。